
Extra

シャボン玉が飛んでいる。
綺麗な夕焼けがシャボン玉の中に閉じ込められて、それが弾けるとなんだか少し寂しい気持ちになる。
客人はぼんやりとそれを見つめながら、なんだか白昼夢を見ているようだと考えている。
「綺麗でしょう」
ふと、誰かに声をかけられる
「これを使えばどんな悪夢も吹き飛ぶよ」
振り返ると、にたりと微笑むこどもが立っていた。
「あなたが依頼してくれた人?」
客人は首を振る
「いやいや、きっとあなたさ!」
こどもは勝手に話を進める。
「悪夢回収のご依頼ありがとうございます!僕はマーリャ。悪夢の回収と…これ、utakataを売っているしがない商人だよ」
マーリャがタバコのようなものを見せつける。こどもがタバコなんていけない。客人はそれを奪い取ろうとする。
「おっと!これはぼくのutakataだよ。あなたの考える"それ"じゃない。」
「utakataはね、見たい夢が見られる代物さ。悪夢回収に依頼ができない時使うの。どんな夢を見ていても、この瓶に入った夢のインクを使って…ふぅっ」
(マーリャ 笑い声)
瞬間、utakataから発生したシャボン玉が広がる。ぼうっと見つめているうちに、なんだかとても心地よい気分になる。そうして、客人は、段々と意識が遠退く。
「見蕩れちゃうよね。けれど夢中になりすぎてはいけないよ!」
夢中、というよりも、夢の中へと入っていく感覚。
こどもの頃感じたことのある、ふわりと浮かぶような気持ちがした。なぜだかとても懐かしい。
「それでね、インクによって見られる夢が変わるんだよ!今持っているのは…」
「あれれ、あてられちゃった?まだ話しているのに!も〜」
【幽閉された王子】
気が付くと、そこは先程とは違う場所。
暗くてひんやり。とても寂しい空間
「だれ?」
聞き覚えのある声に振り返る。マーリャだ。
いや、マーリャでは無い?纏う雰囲気が違う。
客人は夢を見ているのだと思った。
「…ねえ、キミはぼくと、会ったことある?」
ない、と言えば嘘になる。顔つきも、言葉遣いも、マーリャだ。けれど、それすらも夢だった気がしてくる。
客人は首を横に振った。
「そっか…」
「…あのね!ぼくは王子なんだ。この世界の」
突然の言葉に戸惑う。客人の知るマーリャは王子ではなく悪夢回収の商人だ。しかし、夢の中なら人は何にでもなれる。
彼に話を合わせることにした。
「キミは信じてくれるんだ…!」
「みんなね、ぼくに会いに来てくれるんだ。けれどね、ぼくが王子だと言うとみんな笑って帰ってしまうんだ。」
「ぼく、色んなことを忘れちゃって。でもこれだけは本当だってわかるんだ!…いや、どうしてわかるのかは、分からないけれど…」
「ぼくには守らないといけない人がいて、とても大切な人で、忘れたらいけないのに。今のぼくは、自分が王子だったことしか覚えていないんだ」
「けれどみんなは違うと言って。もうぼくは、ぼくすらも信じてあげられない」
「ぼくが探している人は一体誰なんだろう」
M1『明けない夜のリリィ』4:38
浮遊感。
【宇宙服の少女】
夢の住人になってゆく感覚がある。
深い眠りについてしまいそうな、足が地面から離れていく感覚。
M2『未確認少女進行形』3:58
また同じ顔。けれど、彼女は宇宙服を着ている。
客人はマーリャ、と声をかける。
「わっ!ひとだ!」
不思議な驚き方をされた。
「こんにちは?それともこんばんはかな。ひとさん、ご機嫌いかが?」
自分も人であるのに、変な呼称だ。
指摘すると、彼女は首を傾げた。
「ボクはいま、ウミウシのはずだよ?あれ、ブンチョウだったかな。」
「まあいいや。ボクは今ひとじゃないの!ひとさんは何してるの?お散歩?ボクはノロマの亀だから、お散歩はニガテだなぁ…」
どんどん自認が変わっていく。
「なに、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔してるのさ!ああ、キミはハトさんだったんだね。」
自分は人間だと否定する。
「も〜、夢は何にだってなれるのに。ずっときみはつまらない!つまらない雑草だ!」
「ぼくはこれからネズミを取りに行くんだよ、ヘビは忙しいんだ。」
「またね野うさぎさん!今度は面白い話をしに来てよね!」
呼び止めようとした手は茶色の毛に覆われていた。ウサギのように小さな手足。
客人は己が何者か、分からなくなる。
【サーカスの双子】
「おにいちゃん(おねえちゃん)起きて!」
眩しい光で目を覚ます。
色とりどりのライト、さまざまな装飾を施された馬たちが、陽気な音楽に合わせて回転している。メリーゴーラウンドだ。
「いま、とってもいい所だったのに!」
「すごくいい所だったんだよ!」
ごめんごめん、と客人は謝り、もう一度見せてくれと双子に頼む。
「だめだよう、ボクら前には進んでも後ろには戻らない」
「ワタシたち過去を振り返らないんだから」
「過去に戻ったって、おねえちゃんはまた見逃すよ!」
「おにいちゃんは絶対に見逃す!」
信用されていないみたいだ。見ていなかったことをとても後悔している。
「だからね、おにいちゃん(おねえちゃん)」
「ここからは見逃さないで、しっかりと見届けてね」
【悪夢】
ノイズ
先程までいた草原で目を覚ます。
目の前には、最初に出会った姿のマーリャ。
「やっと目を覚ましたかい?」
よかった。普通のマーリャだ。
いや、マーリャ…のはず。違う?
マーリャとは。ぼくが最初に出会ったのはマーリャじゃなくて。
そうだ、ぼくは変な夢を見ていて、それで…
「気に食わなかったのかい?あんなに素敵な夢たちを魅せてあげたのに。あなたは強欲だ。」
「人の夢を覗いてしまったんだから、あなたは悪夢から逃げられない。」
何を言っているんだ、だってキミは…
視界が赤く染ってゆく。
これが、悪夢だというのか。
M3『地球の裏』4:24
笑い声が響く。だんだんと大きくなる。
耳を塞ごうとしても、手の感覚も、息をしているのかも分からない。
自分が消えてしまったような、何もかもがなくなってしまったような。
そうだ、もともと、客人なんて
【目を覚ます】
「おーい!大丈夫かい?」
目の前にマーリャの姿
「ぐっすり眠っていたからさ。起こさずに見ていたら、急に苦しそうにして。」
「まあ、何事もないのなら大丈夫!もしかしたら、誰かが悪夢を回収してくれたのかもしれないね。」
それはマーリャの仕事だ。
それなのに、目の前のこどもはマーリャとは違うように見える。
「ああ、自己紹介がまだだったね!」
「ぼくは夢境めいろ。とある星で悪夢を回収する商いがあったみたいでね、少し研究しているんだ。それを今日はお客様へ教えてあげようと思って…あ、そうだ!」
夢境めいろがutakataを取り出す。
「これはね、その商人が売っていたとされるutakataだよ!まあ、模倣品だけれど…」
「見た目はタバコ、中身はシャボン玉。インクをつけて息を吹くと意図的に夢が見られるんだとか。面白いよねぇ!」
「良ければお土産にどうだい?使えないのだけれど、思い出にはなるんじゃないかな。」
「まあまあ、いらなくてもさ、ほら!キミの友人や家族にあげてよ。キミからのプレゼントを喜んでくれる人、いるだろう?」
様々なサイズの模倣品を受け取り、客人は夢境めいろに見送られて次の場所へと足を運ぶ。
空を見上げると、遥か頭上にシャボン玉が飛んでいた。
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【マーリャ】
一人称¦僕
二人称¦あなた
悪夢回収屋さん。
彼もまたutakataの中毒者だが、それを『救い』だと信じ、正義感を持ってutakataを売っている。
【幽閉された王子】
🗝記憶の喪失
一人称¦ぼく
二人称¦キミ
『誰かに守られたい』という願いから、己を『守る』側だと無意識に錯覚させている。
【宇宙服の少女】
🗝自己の不確定
一人称¦ボク
二人称¦ひと(他動物)さん/きみ
何者にもなれなかった自分に嫌気がさして、何者でもないからこそ何者にでもなれる居場所を創り出した。縛られることが大嫌い
【サーカスの双子】
🗝時間の不可逆
一人称¦ボク/ワタシ
二人称¦おねえちゃん/おにいちゃん
ふたりで一人、ひとりで二人?
過去に戻りたいと願う気持ちが、それを否定する性格を生み出した。
何も考えたくない。ただ甘えたいこどもたち。
【夢境めいろ】
一人称¦ぼく
二人称¦キミ
夢の案内狐
【㊙️】
夢に出てくるのは全てマーリャの過去のトラウマから乖離した人格。これらは全てマーリャの夢である。リスナーは夢の中で客人視点を体験するが、実際にはそれもまたマーリャ自身であった。
どれも『信頼』『自己』『記憶』といった、人々にとって失うことに恐怖を感じるものがコンセプトとなっている。
自分とはなにかという誰もが持つ悩み、そして自分の存在意義を探し求めることこそが人生の意味であるという持論を元に物語を構成した。
没案として【春風に靡く淑女】というマーリャの母を出そうと考えたが、マーリャはutakataに毒されてしまって母の存在すら思い出せないといいなと考えたため没に。
作品モチーフは「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」、世界観モチーフは「魔法少女まどか☆マギカ」
