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イテルの栞.png

夜空に浮かぶ星のひとつ、イテル。

この星がそう呼ばれる由縁。その成り立ち。

そして、その星の物語が何故生まれたのか。

輝く星の起源を知るための旅へとようこそ。

 

これから皆様には、語り部の僕と共に、

イテルという星にまつわる話をお届けします。

この星は、旅に出た愛し合う二人の姿から

生まれた星だと言い伝えられています。

 

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①There's No Business Like Show Business / Annie get your gun

 

「さあ皆様!本日の公演も存分にお楽しみ下さい!」

 

とある国に歌劇団の団長を務める一人の男がいた。

イテルという名のその男はお客様を楽しませるために

日々ショーを行い、様々なパフォーマンスを届けている。

そんな彼の生活は人々の笑顔のお陰で成り立っていた。

楽しげな団員の表情や、お客様の歓声が飛び交う中、

イテルだけは嘘の笑顔を浮かべていた。

 

「それでは愉快なショーをお楽しみ下さい!」

 

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今日も一日を終え、イテルは疲れた心と身体を休ませる。

顔に貼り付けた嘘の笑顔を剥がし、ようやく心が和らぐ。

イテルがショーを作るのは、それが好きだからではない。

ショーを続けるのは、生活していくために必要だからだ。

 

赤子のとき、道に捨てられていた所を当時の団長に拾われた。

召使い同然の扱いを受け、団の雑用係として育てられた。

彼はイテルという適当に付けられた名前や育てられた環境、

自分を取り巻く全てに形容しがたい悲しさを抱いていた。

 

その後団長が早くに亡くなり、イテルを縛るものは減った。

しかし彼が生きるためには、この歌劇団で働くしかなかった。

満足に愛情も教養も与えられず、そんな環境で育っていた彼は

己に存在価値を見出せず、狭い世界から抜け出す術さえ知らない。

心に虚しさを抱えつつ、彼はこの歌劇団の団長として働いていく。

そして偽物の笑顔を浮かべながら、彼はショーを続けていた。

 

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ある日、ショーを終えたイテルは、終演後にとあるご令嬢から声をかけられた。

この歌劇団によく足を運ぶ高貴な家柄の娘だということは知っていた。

そんな方に声をかけられ、あるお誘いを受けたことにイテルは驚いた。

「もし良ければ、これから私と一緒に星を見に行きませんか?」

 

何故自分が誘われたのかは分からないが、イテルは彼女の誘いに乗ってみることにした。

そうして連れて行かれたのは、自然に囲まれ、星が綺麗に見える小さな広場。

周囲に人影はなく、夜は人気(ひとけ)が無いことが窺える。周りを気にせずに話せそうな場所だと感じた。

そんな考えを抱きつつ広場のベンチに腰を下ろす。すると彼女が真剣な表情で喋り始めた。

 

「私、ずっと貴方が気になっていたんです。嘘っぽい笑顔を浮かべて歌って踊る貴方が。」

イテルがその言葉に動揺を隠せずにいると、彼女は自分の身の上話をし始めた。

貴族の令嬢として親に敷かれたレールを歩く人生。自由さとはかけ離れた生活への苦悩。

彼女もまた自身を取り巻く不自由な環境に、苦悩を抱きつつも笑顔を浮かべ生活をしていた。

 

そして家族に連れられショーを見にきたとき、イテルの嘘で塗り固められた笑顔を見て、

こんな素敵なステージにいて、何故自分と同じような笑顔を浮かべるのか、と感じた。

それからはイテルのことが気になってしまい、歌劇団のショーへ足を運ぶようになったのだと。

そして今日、ついに意を決してイテルに声をかけてみることにしたのだと。

 

イテルは自分の心を知りたいと言ってくれた人に初めて出会い、高揚感を感じていた。

誰にも理解してもらえないと思っていた気持ちを同じく持ち、自分を見つけてくれた彼女。

それはイテルの人生において、生まれて初めて自身の存在を許されたように感じる瞬間であった。

気が付けば二人は、お互いの抱えている気持ちや悩みを共有し合っていた。

 

星明かりが照らす街の中で、孤独な想いを抱えた二つの小さな星が、

嘘のない笑顔を浮かべながら、この小さな街の広場を照らしていた。

 

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②City Of Stars / LA LA LAND

 

それからは歌劇団の公演後に、二人で度々逢瀬を重ねた。

互いに不自由な環境の中でもなんとか時間を合わせて、

終演後のわずかな時間を使って、いつもの広場に集まる。

そんなささやかな瞬間が、彼らの唯一の安らぎの場所だった。

 

もっと彼女と共に時間を過ごしたいと願うイテルであったが、

彼女の高貴な家柄故に、頻繁に家を抜け出すことは難しい。

それでもイテルは彼女と言葉を交わしていく時間が好きだった。

自分とは別世界にいるのに、同じ孤独を抱く彼女を愛しく思っていた。

ただその感情を伝えはしなかった。きっと彼女を困らせてしまうから。

 

自分達の生活や育ち方、好きなものや苦手なものを沢山教え合い、

お互いの知らないことを共有したり、共に遊んではしゃいだりもした。

ときには二人でシャボン玉を膨らませ、同じ景色を見て笑い合った。

そんななんてことのない出来事の数々が、空っぽだった彼らの日々を満たした。


 

「こうやって、毎日貴方と一緒の夜を過ごしていきたい。」

ある日彼女はイテルに対して、真剣な面持ちで想いを告げた。

お互いの身分や環境の違いから踏み込まないようにしていた話題。

そこに彼女が踏み込んだ。それは、イテルに強い衝撃を与えた。

 

普通の庶民が高貴な生まれの彼女と結ばれるのは簡単なことでは無い。

それでも彼女が伝えてくれたその願いを、イテルは叶えたいと思った。

自分と同じ心の痛みを抱える彼女が、そばにいることを望んでくれている。

そしてイテルもまた、彼女の孤独に寄り添いたいと強く願っていた。

 

「二人で心から笑顔でいられる毎日を作っていこう。」

この人と幸せになりたいと、イテルは初めて誰かとの幸せを願った。

想いを伝えた後、幸せそうに笑う彼女のその表情を見たとき、

イテルは何があっても彼女のそばにいようと心の中で誓った。

 

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しかしどれだけ幸せを願っても、現実は彼らを苦しめた。

愛し合う二人を、全ての人が祝福出来るわけではない。

彼女の家族に対して、一緒になりたいと申し出をした結果、

身分違いの愚かな男と一蹴され、彼女と会うことさえ禁じられた。

 

平民風情の男が高貴な家柄の娘を誑かしたという噂は、

歌劇団にも影響を与え、団員との関係に不和を生じさせた。

そもそも他人に対して心を開かなかったイテルには

親身になって味方をするような仲間や友人もいない。

だが、彼女に会えないことに比べれば別に苦ではなかった。

そうして彼女を諦め切れずに鬱々とした日々を過ごした。

 

イテルはショーを終えると、一人でいつもの広場へ向かうようになった。

彼女と共に過ごしたこの場所が、今ではイテルの唯一安らげる場所だ。

もう客席にいる彼女を見つけ、ここで待ち合わせることはない。

それでもイテルはこの場所へ足を運ぶことを止められなかった。

ここにいれば、たとえ彼女と遠く離れて過ごしていようとも、

一緒の夜を過ごしているような、そんな気がした。

 

そうした日々を過ごしている中、ある日彼女が急に広場に現れた。

再会の喜びを感じる間もなく、彼女は真剣な表情で口を開いた。

「貴方と一緒の日々を過ごせるなら、全てを失っても構わない。」

その言葉は、彼女のいない世界を受け入れられないイテルにとって

大切なものを諦めなくて良いと、許された瞬間だった。

「僕達が二人で毎日を過ごせるなら、他には何もいらない。」

イテルはそう呟き、二人は笑顔で頷いた。

 

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③Somewhere / West Side Story

 

「歌劇団は良いの?折角あの場所で頑張ってきたのに。」

「さっきも言っただろ。君がいれば、他には何もいらない。

僕達二人が共に過ごせる場所へ、一緒に旅に出よう。」

「ええ。ずっと一緒にいるわ。」

 

その後は急いで荷物をまとめ、歌劇団と彼女の家族に書き置きを残し、

屋敷を抜け出してきた彼女を連れて、僕達は旅に出ることにした。

この国を離れて、誰も僕達を引き裂けない遠くの地へ。

二人だけで、ずっと一緒にいるために。

 

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旅の支度を済ませた頃には、すっかり夜も更けていた。

「これが、この国で見る最後の景色か。」

「この星空が恋しい?旅に出るの、止めにする?」

「まさか。僕達の新しい門出にぴったりだなって。」

 

これから僕達はこの生まれ故郷を離れて、遠い地を目指す。

この先にどんなことが待ち受けているかは、僕達にも分からない。

それでも、ここに君がいる。僕の隣にこうして君がいることで、

どれほど僕が幸せをもらっているか、君は知っているだろうか。

 

彼女とここから旅立つことは、きっととてつもなく罪深いことなんだろう。

それでも、何があっても彼女のそばにいると心の中で誓った。

愛する君とずっと一緒にいられることを、僕は幸せに思う。

 

やがて空の星達が煌々と輝く中、二人は静かにこの国から旅立った。

イテル達がいなくなった後、この国にどのような影響があったかは分からない。

旅に出たイテル達がどのような結末を迎えたのかも知られていない。

しかし、旅に出る前にイテル達を偶然見かけたという人が言うには、

心底幸せそうな笑顔を浮かべながら、二人で共に歩く姿を見たという。

その姿は、見た者を幸せな気持ちにする、星のように眩しい笑顔だったと。

 

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④A Sky Full of Stars / Sing 2 2:23

 

夜空に浮かぶ星のひとつ、イテル。

この星は、旅に出た愛し合う二人が

遥か遠くの地で幸せそうに笑っている。

そんな逸話から名付けられた星になります。

 

この星がそう呼ばれる由縁。その成り立ち。

その物語がどのようにして生まれたのか。

星の起源の物語を知った貴方の瞳には、

このイテルの星が、どう見えていますか。

星影と共に、果てなき旅路を歩んでいる

空に輝くあの星が、どんな風に見えますか。

 

そして、貴方の瞳に映ったその星は、

記憶と共に、貴方の心に刻まれる。

その特別な星を繋ぎ合わせたとき、

世界に一つしかない星座が生まれるのでしょう。

貴方の瞳は、貴方の心は、

どんな星座の物語を結ぶのでしょうか。

©2026 七つ星の物語リレー

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